叡智は闇を突いて
人は文字を創造し、想うところを記録し始めた。想いは文字になって文字は主の亡き後もこの世に残った。ここに偉大なる思考の蓄積が始まる。人は語り継ぎとしての「脳ひとつ分」の記憶容量から解き放たれて、記憶の普遍性を体験する。思考の蓄積なる書物は一角(ひとかど)に集積され、人はそれを「ライブラリ」と命名した。ライブラリは人類の思考の防人。度重なる天変地異、資料の風化、時には人々の争いによる破壊と再生を繰り返しライブラリの理念と実体は今日まで受け継がれている。ライブラリがいつしか掲げ始めた理念の一つに、「あまねく公平にサービスする」という精神がある。それは、今あなたが住んでいる街の図書館でも同じことで、人気(ひとけ)の途絶えた書架の一隅などで今でも時折、”人類の叡智を皆で分かち合おう”と静かに歌う空気のよどみを感じることができる。本当ですよ。
今、ライブラリの概念が大きく変わろうとしている。コンピュータ・ネットワークが世界を包み、ビットという新しい文字が走り出した。15世紀、グーテンベルグが活版印刷技術を発明した時の興奮が蘇り、私たちは文字の創造以来、受け継いで来たライブラリの理念と実体をどのようにして未来へ運んでゆけばよいかと、今このひとときに生ける者として考えさせられます。
人類思考の蓄積を守り続ける書庫の重厚な扉に触れるにつけ、
昼下がり、日だまり脇の書架の一隅で静かに歌う空気のよどみを聴くにつけ、
闇夜に包まれた図書館、智の灯かりのもと熱心に勉学に励む学生を見るにつけ、…
hanalei malte 著「life, love, and the internet」