眠りの滝の夜

眠りの滝の夜

今日も精一杯、自分なりの一日が過ぎて行こうとしています。こういうふうに書けることはあるいはとても幸せなことなのかもしれません。平凡な一日だったかも知れないけれど、平凡さに幸せを感じてしまう夜だって現にこうしてあるのです。今夜はそういう気分です。今、「カリンッ」とグラスの氷が心地よく鳴りました。やがてその響きも遠のいて、また静かな夜がさらに深く深く沈んでゆきます。静かにペンを取り、開いた大学ノートに綴り始めた。

あまりに眠たくて、まぶたが重たくて、もうこれ以上なにも書けません。書きたいと思うことは山ほどあるのに、けれど頭のうしろ、奥深いところにどんどんことばが落ちて行きます。

僕はいま大きな流れのなかにいて、ボートに乗り、大河を下っています。だけど前を見ると川はその先でなくなっています。そう、目の前には巨大な眠りの滝が迫っていて川はそこでストンと流れ落ちているのです。

僕の前を「君に伝えたいこと」がどんどん流れて行きます。そうして僕が君に伝えるべきことは、伝えられることなくして次々と滝の下へ消えて行くのです。

たぶんそれらは、結局のところ君には伝えられない方が良かったのだと思います。確信は持てないけれど、そういう予感がするのです。僕が君に伝えたいことなんてどんどん滝つぼに落ちちゃえばいいのです。君がいくらがんばって滝つぼを覗き込んだってもうだめです。今夜、日本中のありとあらゆる、ためらいとささやきと、そういう行き場を失った言葉で滝つぼはあふれ返っているからね。

やがて僕のボートが滝にさしかかり、僕の意識が眠りの滝へ落ちて行きます。

hanalei malte 著「life, love, and the internet」

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