ビットはやがて雫(しずく)となって
Yuri : 「おはようございます。わたしは理由(わけ)あってコロラド州の山間(やまあい)にある小さな町で暮らしています。幼い頃に移り住んできて以来、この町の澄んだ空気と暖かい人たちに包まれて毎日を送っています。わたしの生まれ故郷である東京にいるあなたと、今こうしてお話していると、何だかわたしの運命は自分とはまったく関係のない何かによって動かされてきたのではないかと確信することができます。たぶん、どんなにがんばったっとしても、どんなにがんばらなかったとしても、結局のところわたしはここコロラドの大地で今と変わらぬ暮らしをしていたのだと思います。そしてさらに確信します。おそらくこれからもずっと、大きくなってもわたしはこの地を離れることはないんだと。」
Flying Squirrel : 「こんばんわ、モモンガです。東京はこのところ雨天晴天を繰り返しています。少し暖かくなったかと思うと急に寒くなったりと、もう少しのところで殻を破って誕生しそうな雛(ヒナ)の鼓動のように、今か今かと春の胎動が街全体を覆っています。今夜、新しいFM局 “Tokyo Wind”が開局しました。東京の夜にまたひとつ新たな色を添えてくれそうです。今日も人の波が横断歩道を埋め尽くし、ひとりひとりが違う方向を向いて今このひとときに存在する、ただそれだけの情景が乾いた鋭利な断片となって僕の日常を支配しています。その鋭利な断片が心を貫いてしまわないよう、僕は硬く厚いシェルターを自分の心に築いて今日も一日を終えます。」
Yuri : 「わたしはね、コロラドの山間部からこうして外の世界を覗いているの。あなたのいる東京、そして何よりもわたしの生地、東京にアクセスして、そして、いろいろな想いは馳せてわたしのヴァーチャル・アイデンティティが今日もわたしの代わりにささやかな欲望を満たしてくれるの。」
Flying Squirrel : 「こうして眠りに落ちるまでのひとときを遠く離れた君とふたりですごせることを嬉しく思います。僕の心はしばしシェルターを解いて、君のいる遠い町の新鮮な空気に触れて浄化されています。」
Yuri : 「そのうち、わたしはもう一人のヴァーチャル・アイデンティティに同化して、そして埋没してしまうわ。わたしの想いはビットになってあなたのいる東京に飛んでっちゃうと思うの。わたしはビットになって世界を駆けて、あなたのベットで枕を濡らす夜もあるかもしれないわ。わたしはビットになってあなたを激しく求めるの。いい?」
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Binary Digits Goes around the World …
ビットが心を潤す時代に僕たちは生きている、
アトムとビットの狭間で翻弄され、
ビットが思いもよらぬ局面でアトムを凌駕してゆく、
僕の想いはビットとなってアトムの領域で君を濡らす。
hanalei malte 著「life, love, and the internet」