名もなきホテルより

名もなきホテルより

ここは君が予想もできないくらいに遠い街です。今、ホテルの一室でこの手紙を書いています。部屋にはテレビも有線放送もありません。ベットサイドには時計と「BGM」と書かれた小さな白いボタンがあるだけです。その四角形の白いボタンをカチンと押し込むと、壁にはめ込まれた小さなモノラルスピーカーから悲しげなクラシック音楽が響いてきます。どこか遠くの、忘れ去られた中世の古城でひっそりと演奏されているような調べです。名もなき協奏曲は僕の記憶を丁寧に巻き戻し、いつしか生まれたころの自分と向き合っているかのような感覚にさせてくれます。そして、少しは救われた気分になります。

今日、午後のフライトでそちらへ戻ることにしました。
またあの小高い丘のダイナーで「エビとホタテのクリームソース」を食べましょう。

hanalei malte 著「life, love, and the internet」

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