女の子と初めて食事をすることについて
これを読んでいる君、いま好きなひとはいますか。
君の想いは、君のそのあきれるくらいに素直できれいな堅い心の扉をこじ開けてしまうほどに、毎夜静かに高鳴っていますか。そして、想いは上手く相手に伝わりそうですか。
「恋なんてゲームだわ(だよ)。今夜はどの服がいいかな。どこのレストラン予約してくれたのかしら(おこうかな)。」なぁんていう人が実際にどれほどいるのかわからないけれど、そういう恋の達人は別にして、今日は恋だの愛だのにとっても戸惑いつつもどこかにそのターミナルを探したいあなたにお話ししたいと思います。このお話は、そんなあなたに安心感を与え、恋の達人の笑い話になればいいと思います。
ふたりの恋が始まると、ふたりはお互いを気遣いつつも本当の自分を少しづつ相手にさらけ出し、相手とのギャップを尊重するとともに、ギャップを埋め合いながらふたりで共有できる世界を作っていく。僕の場合、このプロセスはとても恥ずかしい行為です。偽りのない自分を見せることが恋愛の絆を弱めることにつながりやしないかと思うと恐いのです。そして、もしそれが初めての経験であるならば、君は相手のことを知ると同時に恋愛というものをも同時に知ることになると思います。そうこうして時間が経つとともに、いつのまにか君たちふたりだけの恋愛が育っています。
僕が綾乃さんと初めてデートをしたのは若葉萌える、新緑の季節でした。その時すでに僕は彼女のことが好きで、彼女は僕のことが好きでした。僕たちはその日、初めてふたりで食事をすることになったのです。だって、五月のぼかぽか陽気のなか、東京の街を歩いていてお昼も過ぎればそれはもう自然すぎる流れです。僕たちはすぐ近くのレストランにはいりました。今から思うと偶然入ったにしては、僕たちふたりが最初に行くにふさわしい、心地良いレストランだったと思います。彼女はピラフを頼んで、僕はオーブンサンドを頼みました。僕がなぜオーブンサンドを注文したかという理由を今でもはっきりと覚えています。皆さんは笑われるかもしれないけれど、それは手で食べられるからだったのです。とにかく学生の頃から喫茶店とかレストランに(コース料理なんてもってのほか!)行き慣れていなかった僕は彼女の前でナイフやフォーク類を使うことだけは避けたかったのです。やがてお皿が運ばれてきて僕たちは楽しく食事を始めました。僕はナプキンで手を拭いてからオーブンサンドをガブリと食べる。これなら簡単だ。5月の陽気はレストランのガラス窓をすり抜けるほどに透明感にあふれていました。しかし、食事が進み安心したのもつかの間、ふと気づいたときには、僕のオーブンサンドはきれいさっぱりなくなっているのに、彼女のピラフはまだ半分以上残っているのです。しまった。僕は食べるのが人一倍、早かったのだ。しかし、今更お皿にもう一つサンドイッチがポッコリ出現するはずもなく、とにかく彼女の食べるしぐさを眺めつつ楽しく会話をしていました。
「もうおなかいっぱいになっちゃった。正太くん食べる?」
唐突に、でも「こんなことは世界の常識よ、ずっと昔からよ。」って感じの口調で彼女はそう言った。僕はドキッとした。でも僕はまだまだ食べられたし、目の前のピラフはおいしそうだったし、彼女の残したものを食べるという生まれて初めての体験にワクワクしていたので、条件反射的に食べたいという表情をしていました。僕が返事もしないうちに彼女はくるりと180度お皿を回転させて僕を見た。僕が戸惑いがちに彼女の使っていたスプーンを手に取ると、彼女も戸惑いがちにニコリとする。そのとき、僕と彼女の空っぽの世界に最初の共有が芽生えたことを覚えています。
僕と彼女のピラフのスプーン。
hanalei malte 著「life, love, and the internet」