フィラデルフィアまで
ひとり車に乗るとエンジンをかけた。車は静かにガレージを出て、10分も走ればそこはもう秋の風景だった。車は黄昏時の秋風に揉まれてまっすぐな道路をひた走った。お気に入りの曲は車内いっぱいに広がって、空虚な気持ちに秋の黄金色の風景がよく馴染んだ。その曲はリピートされ幾重にも染み入り僕を落ち着かせてくれた。静かに抑揚するかたちにならないうねりのようなものが絶えず僕を包み込んで放さなかった。
その時、僕はフィラデルフィアの女の子と恋に落ちていた。声も姿もわからないそのデザイナーの女の子とのインターネット上の恋愛は、もしかしたら幻想なのかもしれない。でも現実との狭間で揺れる「彼女との恋の幻想」はいつしか幻想とは呼べない領域にまでに広がって来ていた。東京生活にもそろそろ飽きた5年目の秋、もしかしたらいいタイミングなのかもしれない。僕を縛り、自分らしさを追求する可能性の芽を自らの手でことごとく摘むことによって危うく存在する今の生活もそろそろお終いにしようかな。
“Streets of Philadelphia”
Bruce Springsteen は語り続けた。そして僕は考え続ける。仕事を辞め、部屋を引き払い、少しばかりの友人にさよならを言い、荷造りをして、エア・チケットをポケットにしまい、僕の背後でドアは閉まる。そう、フィラデルフィアまで20時間。
hanalei malte 著「life, love, and the internet」